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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)62号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二そこで、まず審決の称呼についての類否判断の当否について検討する、

(一) 当事者間に争いがない本件商標と引用商標の構成(請求の原因(二)1記載)によれば、本件商標から少くとも「ポンフイール」の称呼が生じ、引用商標から「ポンシル」の称呼が生じることは明らかである。

ところで、右の両称呼は、中間音において前者が「フイー」、後者が「シ」と相違しているのみである。

そこで、右相違点について吟味してみるのに、「フイー」は「フイ(fi)」の長音であるのに対し、「シ(Si)」は短音であるところ、<証拠>によれば、長音と短音の区別は、時間的にも、音響的にも、数値的絶対性はなく、比較印象的なものというほかないことが認められ、しかし<証拠>によれば、上下の唇を使う両唇音Fと舌の先と上の歯茎で狭いすきまを作つて呼気を摩擦させるSの音は、とかくあいまいになりがちであることは認められるけれども、「ポンフイール」、「ポンシル」の両者とも第二音の「ン」が破裂音で、強く響く語頭音の「ポ」に吸収されて微弱な音となるため、これに続く「フイー」または「シ」の音との間に段落が生ずるように発音され、「フイー」と「シ」は明確に響くものとなり、「フイー(fi)」の母音iが長音であるのに対し、「シ(si)」の母音iが短音であることと相俟つて、「フイー」と「シ」の各音が称呼全体を識別する力を有するとみるのが相当である。

なお、原告は、引用商標は著名性を獲得しているから、本件商標の称呼「ポンフイール」と引用商標の称呼「ポンシル」の相違程度では各商標を使用した商品の誤認混同を防止しえない旨主張する。

右の主張について考えてみるのに、商標という標識自体の類似に関する商標法第四条第一項第一一号においては、商標が著名であればそれが一般取引者、需要者の先入観となつて識別を誤らしめる場合がありうるために、著名性が取引の実情の一つとして考慮されるにすぎないところ(それ以上の具体的な著名性は同条同項第一五号の問題である。)、本件で原告が主張しているのは、指定商品の一部たる医薬品の業者とか医師の間における著名性であつて、医薬品の取引に相当の注意力を有するとみられる専門家ないし専門業者の間における著名性であるから、一般取引者、需要者の多数に対しては、本件商標と引用商標との間に称呼上前記の程度の相違がある以上、両商標の識別力を失わせることはないとみるのが相当である。

さらに、原告は医薬品の誤認混同による調剤過誤等事故の重大性を挙げて医薬品の特殊性を強調しているが、調剤過誤による事故発生等医薬品の誤認混同による結果的な事柄を想定し、これをも商標の類否判断の資料とするのは、商標制度と直接にかかわらない問題を商標の枠内に持込むもので相当ではないのみならず、前記認定のような本件商標と引用商標との相違は、医師や医薬品業者が両商標を識別しうるに十分であると考える。

(二) つぎに、本件商標からは「ポンフイル」という称呼も生ずるとし、これを前提に審決の誤りをいう原告の主張について検討する。

1 そこで、本件商標から「ポンフイル」の称呼も生じるといえるかどうかについて検討する。

本件商標の構成については既に述べたとおり当事者間に争いがないが、本件商標は造語を表示したもので上段の欧文字の部分についても英語等の辞書に記載される本来の発音の仕方というものはないところに下段の片仮名文字の部分に「ポンフイール」と表示されているのであるから、「FIL」の英語風の本来的発音が「フイル」かどうかにかかわりなく、本件商標の欧文字部分は「ポンフイール」と発音さるべきことを表示しているとみるべきである。

したがつて、本件商標の指定商品の一般取引者、需要者の中には本件商標の欧文字部分を「ポンフイル」と称呼する者がないとはいえないとしても、それは例外というべく、大部分は下段の片仮名部分の表示に従つて「ポンフイール」と称呼するとみるのが相当である。

また、医薬品の分野においては、二段書き登録商標における欧文字と片仮名文字を一個の商品の包装箱の各面上にそれぞれ別個に表示することが登録商標の典型的使用方法として確立された慣例であると原告は主張しているが、そのような使用方法は商標本来の使用方法といえないことは多言を要しないのみならず、原告の右主張を認めるに足りる証拠もない。すなわち、原告主張のような使用方法もあることを示す<証拠>のような証拠もあるけれども、他方欧文字、片仮名文字並列の使用方法がとられていることを示す<証拠>の写真のような証拠もあり、とうてい原告の主張を認めるに足りない。しかも、商品の包装箱の各面に本件商標の欧文字部分と片仮名部分が各別に使用される場合であつても、一個の包装箱の各面である以上、片仮名部分の「ポンフイール」が造語たる欧文字部分の称呼であるとみるのが自然であつて、通常の取引において、欧文字だけを見て「ポンフイール」と称呼するのではないかとまで、想定する必要はないというべきである。

さらに、原告は、「ポンフイル」の称呼が生ずる理由の一つとして、医師が処方箋に医薬品の商標を記載する場合のことを主張しているが、処方箋への記載は商品に用いられるべき商標の使用ではないから商標の類否判断に当つて考慮さるべき事項とはいえないから、右主張は理由がない。

2 そうすると、本件商標からは「ポンフイール」という称呼のほか「ポンフイル」という称呼が生ずるとはいえないから、審決には原告主張の誤りはないというべきである。

三つぎに、審決の外観についての類否判断の当否について検討する。

引用商標と本件商標とは、別紙第二目録、第一目録に示すように構成上明らかな違いがあり、外観上類似するとはとうていいえない。

もつとも、原告は二段書き商標の欧文字部分と片仮名部分を各別に表示することを前提に欧文字部分の外観の類似性について主張しているけれども、そのような商標の使用方法は商標本来の使用方法でないのみならず、確立した慣例でもないことは前述したとおりであるから、原告の外観類似の主張はその前提において失当である。

また、原告は、医薬品の誤認混同による結果の重大性を挙げ医薬品の特殊性を強調するが、前記のような構成からみた外観上の相違があれば、医師や医薬品業者の識別力を失わせることはないと考えられること、処方箋の記載は、商標本来の使用方法でないこと、医療事故等の結果的な事柄は商標制度の枠外の問題であることは前に述べたとおりである。

四そうすると、本件商標は引用商標と類似するとはいえないとした審決の判断は、これを正当として是認できるから、審決を取消すべき事由はない。

(小堀勇 小笠原昭夫 石井彦壽)

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